血は水より濃い
リビングにいるとき。その日の運が悪かったら母親が怒る。または、祖母が怒る。
あ、だめだ、と思って慌てて机の上を片づける。外に逃げるためだ。
どうしてもリビングから脱出できそうにない時は、Netflixを少し大きめの音量で開く。今日はどちらも間に合わなかったけれど。
祖母はよく私を「可愛げのない子」と言い、母親は「あんたなんて産むんじゃなかった」「私ばっかり」と言う。
そして私は静かに手首を切るか、刃物が近くになかったら
祖母や母親と同じように「私ばっかり」「なんで私ばっかり責めるの?」と泣く。
つくづく似てきていると思う、心底なりたくない二人に。
あんな風になりたくないのに、恋人や弟を私と同じ気持ちにさせたくないのに。
手首を切るのは死にたいからじゃない。構って欲しい訳でもない。
私は手首を切らないと、つい母親や祖母のようにヒステリックに叫んでしまうから。
痛みで誤魔化すのだ。叫びたい気持ちを。
あの人たちと一緒になりたくないから。
似ていないと思いたいから。
一刻も早くこの家から出たい。
これ以上あの人たちに似ない為にも。
感化されないように、同情しないように、
これ以上手首を切らないでいいように。
社会人になったら、いちばん深いリストカットの上からカバータトゥーを入れようと思っている。
この忌々しい血は、私で終わらせたい。