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苦しめ。そう、もっとだ。
そんなことばが聞こえる。
ごめんなさい私の赤ちゃん、ごめんなさい神さま。
もっと苦しみます。死ぬことは逃げると言うこと。死なないように、自分を傷つけて、幸せにならない頑張りを行動で示します。あなたが望む通り。望む限り。
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死んでしまった子供宛に手紙を書いた。
否、死んでしまった、ではない。私が殺した、子供宛に。
あの日から、私の心は死んだ。それは確かに。産んであげたかった、とはなんて無責任で残酷な。
私に勇気と強い心があったなら。
もし、
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先週の金曜日、子供の命日になった。
あれだけ憎んでいた女としての性質にまんまと絆されるわたし、出来ることであればきちんと清潔に愛してあげたかった。
好きな本
三日にいちどはエッチしたいけど、一週間にいちどは尼寺に入りたくなるの。十日にいちどは新しい服を買って、二十日に
いちどはアクセサリーもほしい。牛肉は毎日食べたいし、ほんとは長生きしたいけど、一日おきにしにたくなるの。ひろか、ほんとに変じゃない?
「私、ゴルフをする男のひとは大嫌いなの」 詩史は、そうも言った。ベンツのトランクに積まれた、二つのゴルフバッグ。
今頃胎児はねえ、まぶたが上下に分かれて鼻の穴が貫通している時期よ。男子なら腹膣内にあった性器が下降してくるの、わたしの中から出てきたら、それはもう否応無しにわたしの子供になってしまうの。選ぶ自由なんてないのよ。顔半分が赤痣でも、指が全部くっついていても、脳味噌がなくても、シャム双生児でも……
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目しまめが織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
「はい、干鱈。」
「こまかく刻んでくだすったわ、塩っぱくていい気持、おじさま、して。」
「キスかい。」
「あたいのは冷たいけれど、のめっとしていいでしょう、何の匂いがするか知っていらっしゃる。空と水の匂いよ、おじさま、もう一遍して。」
「君の口も人間の口も、その大きさからは大したちがいはないね、こりこりしていて妙なキスだね。」
「だからおじさまも口を小さくすぼめてするのよ、そう、じっとしていてね、それでいいわ、ではお寝みなさいまし。」
死の欲動の設定によって、サディスム、マゾシズム、サド-マゾシズムという「残酷」と「悦楽」で構成される倒錯の基本病理が見えてくる。これらの病態は、いずれも「<他者>の<意志>」の前に、主体がシニフィアンの衣を剥がされ(斜線を解かれ)、生の姿(生の主体)を晒すこと」である。
「私の恋人は完璧なかたちをしている。そして、彼の体は、私を信じられないほど幸福にすることができる。すべてのあと、私たちの体はくたりと馴染んでくっついてしまう」
だめだよマリアンナ。
自分の全生命をかけ常にシャミリイを思い、彼の為に自分を捧げ尽くしても、もう彼の中ではあなたのことなどただの1パーセントも占めてはいない。その1パーセントの中であなたがどれほどのことをしようとも、もはや、あなた自体が彼の中でなんの価値もないのだから。
彼は、あなたのことなど、気にもしない。
あなたの恋文を真面目にとってやっぱりいるとかいらないとかいうのではなくて、彼にとっては単に、もう、終わったことにすぎない。もう自分に関係のない人が何をしようが、関係ないのだ。
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「お付き合いしている方がいます。え? 結婚? はは、考えてるところです。」
好きな人が出来たからと言って、付き合えたからと言って、一緒に住んでいるからと言って、他人のわからない未来についての結婚や出産に結びつける人が殆どだ。好きだからと言って、一時の感情に自分の未来や、今までの思考を蔑ろにして、自らのクローンを作るなんてばかな真似はしたくない。
それだけじゃない。私だって自分自身がこんなふうで無ければきっと幸せそうに籍を入れて、胸元には赤子を抱いているだろう、きっと。
でもこんなふうになってしまった私にはそれでは駄目なのだ。
私はもう忘れたのか。もう終わりにしたいと唇を噛み締めてロープを首に掛ける感覚を、アルコールとドラッグを流し込んで嘔吐く感覚を、手首に滑らせた刃物を、寝ている間にどうか死ねますようにと願う毎晩を、平然と訪れ絶望する朝を、世界を呪ったあの瞬間を、血の味を。
自分の愛する人にそういう思いは掛けたくない。苦しみを知って欲しくない。私だけが知っていればいいのだから。
避妊薬を飲み続けて、いつの日か卵管を縛れますように。その暁には自分の女である性質への呪縛が解けますように、