愛とは自己犠牲であり、恋とは刹那的な性欲の勘違いである。全てをわかっているような振りをしながら何もわからないわたしは笑顔を貼り付けるだけで精一杯だった。それは15歳の時も、20歳になったってなにも変わってなんてなんかいない。思考をかき消してくれるうるさい音楽。夜中のタクシー、家の冷蔵庫の中の腐った牛乳。置きっぱなしの血まみれのタンポン、あぁ誰にもバレたくない。

ふかふかの絨毯の上でしか歩けなようなキツいピンヒール、若い間しか着れない胸囲とウエストを強調して太腿を露出したミニ丈のワンピースを身に纏い、飲めもしないショットグラスを自傷行為のように無理矢理傾ける。粉々にした安定剤を鼻から吸い込むように、とにかく昔も今も私はこの辛い現実に目を向けたくなかった。ただただ逃げ出したかった。逃げ出したって行くあてなんてありゃしないのに。バーカウンターで一人酒を煽るわたしに対してシルバーのネックレスをつけた如何にもチャラそうな男が声をかけてくる。嘲笑にも似た溜息に、頬杖をつくと指先からあの人の煙草の匂いがした。吸えもしない重いタール数のその煙草を噎せながらも孤独を感じて吸ってしまう。嗚呼、馬鹿みたい。あの人の子供を壊すことも、未来を取り上げることもわたしには出来ない。昔に比べると大人になったんだろうか?じゃあどうして不毛な気持ちを抱いているのか。馬鹿みたいな恋をしているのだろうか。…所詮性欲の勘違いだから。わたしは足を組みかえて声をかけてきたその男に微笑みかける。手を引かれクラブの洗面所でキスをした。所詮性欲、恋なんかじゃない。そう、きっとそう。睡眠薬とアルコールに依存したわたしに男の人は簡単に寄ってくる。たかが性欲。男も女も、きっとそう。

 

こういうの、きらい?潤んだ瞳で見つめながら火照ったわたしの頬に男の手を添えると首元を舐められ、下着をずらされる。気持ち悪い。乾いた陰部を触られたって何も感じない。目を閉じてあの人にされていると思い込めば何故か涙が出てきて辛くて辛くて、知らない男でも気持ち良かった。ひとりで居るとどうしようもなく落ち込んでしまうからわたしにはこれくらいで丁度いい。これを読んだあの人は傷つくだろうか、軽い女と思ってるんだろうか。でもそれは安定を愛しているあの人が言えるセリフじゃない。どうでもいい男に抱かれているわたしを責める権利なんてあの人にはない。あの人には帰る家が、家庭が、あるけれど、わたしには帰る居場所なんてどこにもない。

でも、安定を愛しているくせにスリルを求めるそんなあの人がわたしはどうしようもなく好きで、いとおしくて、ときめいてしまって、

 

 

一緒になりたくてもなれない、彼はそんなの望んでいない。仕方が無いと割り切るしかなかった。その条件を飲んだのはわたしの方だから。好きになった方が負けだから。

男の安っぽいGUCCIの香水と混ざった彼の甘いウィードの香り、EDMの音楽に私の独り言と吐息はかき消された。

 

"平穏に囚われた化け物にだけはなりたくない。"

 

いつかわたしも世帯を持てば、誰かの奥さんになれば今までの不倫相手の妻の気持ちもわかるのかしら。なんて睡眠薬が効いてきて、キスのせいで酸欠気味な頭で考える。わかりたくない。身勝手なままでいたい。すきになってしまって、ごめんなさい